ワーキング・メモリーを有効に活用するには? | SP速読学院

ワーキング・メモリーを有効に活用するには? 

伝言ゲームにかぎらず、私たちは日常生活のさまざまな場面において頻繁にワーキング・メモリーを使っている。読書はもちろん買物やディベート(議論)に至るまで、ワーキング・メモリーの登場シーンは多岐にわたる。何気ない日常会話や、ちょっとした足し算や引き算。そのほか、友だちとの口喧嘩でも私たちはワーキング・メモリーを使う。

たとえば、あなたが友だちと駅で待ち合わせをしているとしよう。待ち合わせの時間を三十分も過ぎたのに、何の連絡もないまま、友だちは姿を現さない。友だちと会った後、すぐ別の用事に出かけようとしているあなたは、腕時計を眺めつつ次第に焦ってくる。イライラした気持ちで、あなたは「そういえば、前にもアイツに待たされたことがあったな」と思い出す。
時間にルーズな友だちは、これまで三度も約束に遅れたのだ。約束の時間を五十分過ぎた頃、ようやく友だちから、携帯電話に連絡が入った。

「ちょっと遅くなるから」

悪ぴれない友だちの声にカチンときたあなたは、「またか!」と怒る。このとき、あなたは「友だちが過去に三回も遅刻している」という点と、「次の用事に遅れてしまうかもしれない」の二点を頭に思い浮かべている。腕時計を確かめると、次の予定まで一時間しかない。あなたが今いる場所から次の予定がある場所まで電車で三十分もかかる。

(今日はアイツとの約束を取りやめて、このまま次の予定に向かったほうがいいだろうか)
携帯電話を片手に、あなたは慌しく所要時間を計算する。電車だけでも三十分はかかるうえに、ここから駅まで走っても五分はかかる。

こうした一連の思考の流れを支配するのが、ワーキング・メモリーだ。友だちの過去の遅刻を思い出すのも、次の予定が迫っているために時間を計算するのも、すべてそうだ。
概して、ワーキング・メモリーの使い方が上手い人は、「頭の回転」が速い。心内辞書へのアクセス・タイムが短いのである。だから、先のフローチャートでいえば読書の際にも「【1】視覚的処理」から「【3】単語検索処理」をほぼ同時に行なうことができる。目に入ってきた文字を瞬時に心内辞書で検索し、意味のある言葉として認識することも可能だ。また、ワーキング・メモリーの使い方が上手い人は、文章の途中でほとんどつまずかない。
反対に、ワーキング・メモリーの使い方が下手な人は「【3】単語検索処理」に必要以上に時間を取られている。古い型のコンピュータのように、アクセス・タイムが非常に長い。心内辞書を検索する作業に時間と労力を奪われ、文章を理解するための余力が乏しくなる。

ワーキング・メモリーの容量は有限だ。しかも伝言ゲームの例でもわかるとおり、その容量は決して大きくない。
読書をする際に重視したいプロセスは何だろうか。少し考えてみてほしい。文章を読解するうえで重要なポイントとなるのは、「【5】文章理解処理」と「【6】文章記憶処理」である。それ以外のプロセスに関しては、無意識のうちに自動処理で行なえるほうが望ましい。目で文字をとらえたら、速やかに心内辞書で検索作業を開始する。この際、文字の「【2】音声的処理」は省略することだ。速読の上級者は、文章を読解するプロセスから「【2】音声的処理」を省いている。

次に、心内辞書の検索時間を極力、短くおさえることだ。文字検索を速やかに処理できるようになれば、ワーキング・メモリーの節約になる。心内辞書へのアクセス・タイムが短縮されれば、文章を速く理解できるようになる。さらに理想を言うなら、ワーキング・メモリーの容量が増えれば、なおよい。ワーキング・メモリーに充分な余裕があれば、余力をたっぷり使って文章を読解できる。

ここまで読んできて(ワーキング・メモリーの容量が大きくなればいいのに)と考えた人はいないだろうか? ワーキング・メモリーの容量が倍になれば、読書がぐんとラクになるであろうことは、想像に難くない。果たして、ワーキング・メモリーの増強は可能なのだろうか。
答は、イエスである。トレーニング次第で、ワーキング・メモリーの容量は増やせるのだ。

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