脳神経学から見た《記憶》
上級学校受験や資格試験を目ざしている人に多いのが、暗記学習のための読書です。
人間の《記憶》について、くわしく説明しておきましょう。
大脳にはミクロ繊維の神経細胞が、ぎっしりと1,000億もつまっています。それぞれの神経細胞は互いに手を結び合い、脳内にネットワークを築いています。
身体の各器官(目、耳鼻など)から取り入れた情報は、神経回路を通って脳に伝わります。情報はナトリウムイオンの電気信号として、神経細胞の外側から内側へ流れていくのです。
電気信号で情報を伝達するという点で、神経回路は電気回路と似ています。
神経細胞には多くの突起があり、なかには特に長い一本があります。
これが《軸索》です。軸索は他の神経細胞とつながっていて、その接続部分は《シナプス》と呼ばれています。
シナプスを電子顕微鏡で見ると、先端がボタン状にふくらんでいるのがわかります。よく観察すると、シナプス同士の聞には、わずかな隙聞があるとわかります。これを《シナプス間隙》と言います。
それまで神経回路をナトリウムイオンとして走ってきた情報は、ここで化学信号に変換されます。そのままの形では、シナプス間隙を通れないからです。
化学信号として次のシナプスにたどり着いた情報は、再びナトリウムイオンに変換されます。
このように、脳内に入った情報は「電気信号→化学信号→電気信号」と変換をくり返します。こうしたプロセスを経て、情報は神経回路にたくわえられます。
しかし、神経回路は無限ではありません。もし、一つの神経回路が割り当てられるとしたら、脳の容量はまたたく聞にパンクしてしまうでしょう。目や耳にした情報をすべて記憶しようとすると、わずか数分で脳の容量は一杯になります。
したがって、一つの神経回路には、複数の記憶がたくわえられています。私たちは有限な神経回路を相互利用しながら、記憶の確保につとめているのです。
私たちが日頃よく、勘違いや記憶違いを起こすのは、複数の情報が一つの神経回路を共有しているからです。同じ神経回路に保存された記憶が、ミックスされて、あいまいな情報になるのです。人聞はコンピュータのように、情報を完璧に記憶することはできません。
しかし、記憶システムのいい加減さに、がっかりすることはありません。複数の記憶が神経回路を共有するシステムには、プラスの作用もあるのです。
私たちは、もともと持っている情報をいくつか組み合わせて、新しいアイディアを生み出すことができます。
ある情報にアクセスすると、同じ神経回路にたくわえられている別の情報も刺激を受けます。一つの情報を思い浮かべたときに、いろんな情報が一緒に出てくるのだと考えてください。
思いがけない発想や創造は、こうした情報のミックスから生まれます。
これは人間の記憶システムが、良い意味でいい加減だからです。コンピュータにはない、人間の記憶システムの大きなメリットと言えるでしょう。
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