読書スピード計測


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　ようやくスルガ銀行修善寺支店に到着した桂子は、指示されたとおり表からではなく、閉店後の出口として使用される通用口に回った。
　修善寺随一の老舗旅館の女将として顔を知られた桂子はＶＩＰ待遇であり、直ちに鄭重に支店長室に案内された。
　支店長室では顔見知りの植松俊一支店長がソファに腰掛け、身代金一億円の札束を積み上げたガラステーブルを挟んで、桂子にも見覚えのある女性刑事が腰掛けていた。
　初対面だが〝静岡県警のアイドル〟として何度かテレビのニュースで報道されたことがあり、記憶に残っていたのである。
「いやー、今回は、とんだことで。泊まられた方が被害者とはいえ、これだけの物を運ばなければならないとなると責任重大ですなあ」
　植松支店長は同情の言葉を述べてから村嶋なつみ刑事を桂子に引き合わせた。
「お二人なら、遠目には良く似ていらっしゃるし、美人姉妹に見えますよ。犯人がどっか近所から見ていたとしても疑わないでしょう」
「そうだと良いんですが……」
「犯人も、この紅葉シーズンの連休明けとは考えてますな。夜間金庫に修善寺界隈の土産物店、ホテル、旅館の連休中の売り上げ金が入っていなかったら、開店と同時に一億円の現金を取り揃えるのは難しいところでした。他行に一時的に借用に出向かなければならんところでしたよ」
　ここで初めて桂子は植松支店長がいつになく饒舌で〝ハイ〟になっていることに気づいた。
　身代金一億円の誘拐事件に当事者として遭遇することなど、いくら銀行員とはいえ、一生の間にこれ一度きりだろうし、興奮するのも無理はない。
　桂子にしたところで、犯人から身代金の運搬人に指定されたりしなければ似たような野次馬的な心境になったかも知れないのである。

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