読書スピード計測


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　新井旅館から伊豆箱根鉄道駿豆線の終点・修善寺駅までは、混雑しない時季であればタクシー料金は千円内外で行く。
　狩野川の支流・桂川に添って、やや道が曲がっているから三キロといったところで、車ならば十分弱の行程だが、紅葉真っ盛りのシーズンには観光客でごった返して、大型バスが数珠繋ぎとなり、三十分以上も掛かることも珍しくない。
　今日は連休明けの月曜日だが、修善寺から帰っていく客と訪れる客を乗せた大中小の車が国道四一四号線（下田街道）や、主要地方道一八号線（修善寺＝戸田線）で窮屈そうに行き違い、やはり甚だしい渋滞を形成していた。
　久々に颯爽と二百五十㏄のバイクに跨った森桂子は、哀れな渋滞を横目に修善寺駅に向かって緊張しつつ、ひた走った。
　前方にも後方にも刑事の姿は見当たらない。
　しかし、吉野の棟の龍田の間が臨時の作戦司令室となり、あちこちに刑事が電話をかけてリレー作戦を指示していた。
　つまり、テレビのマラソン中継で選手の走る姿が複数の固定カメラだけで追跡撮影されるのに似て、大勢の刑事を桂子の予想移動コースに配置し、必ず常に誰かの視界に入っているように工夫するわけである。
　こうすれば誰も桂子を追い掛けて動かないから、誘拐犯人がどこかから見張っていたとしても、警察が関与していることは分からない。
　が、言うまでもなく、これには途方もない人数を必要とする。
　伊豆署の刑事課だけでは人数が足りるわけもなく、県警本部や他地域の所轄署から応援部隊が到着するまでは交通課から庶務課から総動員態勢で取り組むだろう。
　誘拐犯人から入る今後の指示内容次第では、応援部隊が到着したとしても、なお人員的に不足して、桂子が誰も刑事のいない場所で単独行動という状況も発生するかも知れない。
　それを考えると、桂子としては心細さを感じないではいられなかった。

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