読書スピード計測


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「では、犯人にそのように返信します」
　刑事は、ちょっとぎこちない手つきで携帯電話のボタンを操り、身代金の手配がついた旨のメールを誘拐犯人に送った。
　それから三分ほどで再び犯人からメールが入ったが、文面は予想どおりだった。
『身代金一億円は新井旅館の女将に運搬を依頼しろ。どこに運ぶかは、この携帯に指示するから、女将に持たせろ。こちらは女将の顔を知っている。別人を女将に化けさせてもダメだ。身代金を用意するのはスルガ銀行の修善寺支店だろうから、まず、そこへ向かえ。乗用車は使うな。交通手段は二百五十㏄のオートバイを使え。《伊豆の踊子》』
　刑事は携帯電話のディスプレーを桂子に見せつつ確認した。
「このように要求してきていますが、恐縮ながら、大役をお願いできますか？　それと、バイクの運転は？　犯人は、二百五十㏄のバイクを使えと言ってきていますが」
「バイクなら、大丈夫です。乗れます。当館の大切なお客様の一大事ですから謹んで大役を務めさせていただきます」
　既に予測して覚悟を決めていたことだから今さら気持ちの動揺はない。ただ、興奮と緊張で、一気に体温が上昇したような自覚はあったが。
「いやー、助かります。我々も可能な限りフォローしますので、よろしくお願いします」
　刑事は桂子に頭を下げると、まだ修善寺に未到着の主任捜査官・佐竹警部に電話をかけて了解を求め、指示を与えられた。
「一億円は女手には重すぎるので妹をアシスタントとして同行しても良いだろうか――と犯人の承諾を取り付けろという佐竹警部の指示です。女将さんの妹に扮する役割の婦警は、牧之郷からスルガ銀行にバイクで向かっている最中とのことです」
「承知しました」
　桂子は携帯電話を受け取って、さっそく誘拐犯人に宛てて了解を取り付けるメールを入れた。

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