読書スピード計測


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　吉野の間に入るなり、刑事は泉野祐司に身代金の手当ての進捗状況を確認した。
「どうですか、泉野さん。銀行との話は、まとまりましたか」
　先刻まで祐司は、スルガ銀行横浜支店の担当者や支店長と交渉の電話をしていた。
　長引きそうな様子だったし、他の宿泊客のことも考えなければならないので、いったん桂子は帳場のある月の棟に戻ったのである。
　よほど大きな会社ででもない限り、一億円を口座に持っていることはない。
　泉野夫妻が手掛けている輸入健康食品会社、泉野商会の年商がどの程度の規模なのか分からないが、運転資金として何億円かが一時的に入金されることはあったとしても、その内の一億円を抜いたら直ちに経営に支障を来すのが普通である。
　交渉が難航したと見えて、祐司はげっそりと憔悴した表情で頷いた。
「ようやく話がまとまって、こちらの修善寺支店の窓口で引き出せる手筈になりました。自宅が根抵当に入っておりますので、その範囲で出してもらい、必要書類は後で改めて整えるということで。いやー、銀行もお役所仕事に似てなかなか融通が利きませんな」
　祐司は苦笑しようとしたが、頬が引き攣っただけで、笑顔になっていない。
　この祐司の反応を見て桂子は、舞が誘拐されたと知るなり、一一〇番を即座に口にした祐司に内心で違和感を覚えたことを申し訳なく思った。こういう様子なら、どうやら親子関係には〝特段の事情〟はなさそうである。

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