読書スピード計測


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　その頃、新井旅館では女将の森桂子が、いつもの和服から行動しやすいパンツ・スタイルに着替えていた。
　自分が一億円の身代金の運搬人に誘拐犯から指定されそうな予感は、時間の経過と共に桂子の胸中でどんどん強まっていた。
　推理小説やテレビの二時間ミステリーで見る限り誘拐犯は身代金を携えた人間を「あっちへ行け」の「こっちへ移動しろ」のと振り回して周辺に刑事がいるかいないかを確認する。
　それも「何分以内に行け」というように時間制限を設けるのだ。
　泉野夫妻は修善寺は初めてではなく、これまでにも何度か訪れている様子だが、たまに来た程度では修善寺の地理が分かるわけがない。
　誘拐犯としては、誰か地元の地理に精通した人間で、しかも婦人警官の変装ではない者に身代金運搬をさせたいはず――となればホームページで顔写真を公開していて、新聞やテレビでも顔が売れている桂子が最適となりはしないか。
　最初がメールだったのだから、おそらく次の指示もメールで、電話がかかってくることはないだろうと考え、桂子は帳場のパソコンを立ち上げっぱなしにした。
　いつもなら朝昼晩の三度しかメール・チェックを行なわないのだが、パソコンの前を通り掛かる都度メール・ボックスを開いてみる。
　……と、何度目かに《伊豆の踊子》からの二通目のメールが入っていた。

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