読書スピード計測


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　静岡県警本部＝韮山反射炉は、直線距離にして約五十五キロ。
　警察ヘリは時速二百キロ以上の高速が楽に出るので、実質的な飛行時間は十分も掛からないで駿河湾を西から東に横断してしまう。
　つまり、こういう状況においては、飛び立つ前と降り立って以降のほうが、よほどあれこれと雑事に時間を取られることになるのだ。
　ヘリが伊豆箱根鉄道駿豆線の線路を飛び越えて、二本の煉瓦造りの煙突が立って周囲にぐるりと銃剣が柵に仕立てられている特徴ある反射炉を目印に、高度を下げていく。
　事前の注文どおり、蔵屋鳴沢の大駐車場は完全に空けられ、端のほうに数台の車が駐まっているだけだった。
　問題なく着陸すると、待ち受けていた蔵屋鳴沢の若社長・稲村浩宣が土産物センターから駆けつけてきた。
　新井旅館の森桂子が〝美人女将〟として有名なら、こっちは〝イケメン社長〟として有名である。二人とも既婚者なので、もちろん浮いた話とは関係ないが。
「ご苦労様です。伊豆署からの連絡で、下田街道の渋滞でオートバイや自転車を運んでこられないので電車で修善寺の一つ手前の牧之郷まで来て欲しい、そこに用意しておくから、とのことです」
　スリムな長身でダンディな稲村社長は早口に事情を説明した。早くも、この時季の観光事情が、捜査の先行きの困難さを暗示するかのように前途に立ち塞がった。
　思わず佐竹の顔が渋面になるのを同情したように見ながら、稲村社長は続けた。
「伊豆長岡駅までは、当店のマイクロバスでお送りします。やはり、ここから二輪車で行かれるよりは牧之郷を起点にされたほうが時間的には節約になると思いますよ」
　言われてみれば、そうかも知れない――と佐竹は気を取り直した。この段階で気を滅入らせていたのではイザという肝心の時に判断ミスを犯しかねないから、用心の必要がある。

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