読書スピード計測


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「よく言うよ、全く。しかしな、新井旅館の女将は全国区だが、お前は地方区だ。誘拐犯が県内の人間ならお前の顔を見知っている可能性があるが、今回は違うだろう」
「被害者の泉野さんは横浜の人でしたね。泉野商会の社長。お仕事は確か輸入健康食品の販売業でしたっけ？」
「ああ。それで、取引銀行がスルガ銀行横浜支店。修善寺駅前にもスルガ銀行の店舗がある。一億円は支店間で送金すれば、すぐに修善寺支店で引き出すことが可能だ」
　静岡県警本部の一一〇番を受け持つ通信指令室はしつこい。
　面積に比べてパトカーの絶対数が不足しているので、悪戯通報や軽微な事件で呼び出されて肝心要の時に出払った状態に陥らないように、根掘り葉掘り訊く。
　それで、この時点で、かなりの事情まで判明していることになる。
「そういった泉野家の家庭事情まで熟知しているとなると、犯人は場当たり的な犯行で舞ちゃんを標的に選んだんじゃなくて、泉野家にかなり近い立場の人間の確率が高いですね」
　こういう発想ができるのだから、なつみの刑事としての頭脳も、さほど見捨てたものではないのかも知れない。
　被害者の周辺も可能なら捜査したいところだが、身代金の授受方法を巡って誘拐犯がどういう要求を突き付けてくるのか読めない現時点で、その余力はない。
　捜査一課長が気を利かせて神奈川県警に早手回しに依頼してくれている可能性はあるが、神奈川県警のほうが果たして本気で動いてくれるか、何の保証もない。
　都道府県警の縄張り意識は露骨だから、よほどのことがなければ管轄外の事件にヤル気は出さないのが普通である。

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