読書スピード計測


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「それにしても、現場は十月の修善寺か。拙いな、これは」
　刑事たちが続々と県警本部に駆けつけてくるのを待ちつつ、佐竹は苦々しく呟いていた。
　修善寺は春の桜と晩秋の紅葉が名物で、十月中旬――つまり現在から十二月の初旬までが最も観光客で混雑し、ごった返す。
　到る所で大渋滞が発生して、パトカーや救急車がサイレンを鳴らして走行しようが、そもそも譲れるスペースが存在しないから追い越して前に行くことができない。
　当然、民間車両と区別がつかない覆面パトカーはほとんど何の役にも立たない。
　もちろん誘拐犯人は、そういう修善寺のこの時季の交通事情を十二分に念頭に置いて今回の誘拐事件を計画し、引き起こしたものと思われる。
　少なくとも、行き当たりばったりで泉野舞を誘拐したわけではない。
　最初から泉野舞に狙いを絞って誘拐のチャンスを窺っていたのだろう。
「犯人は修善寺に土地勘のある奴か。当たり前だな、新井旅館に泊まっていた小学生を夜中に誘拐したんだから」
　これは、とうてい一筋縄で行く事件じゃないぞ、と思いつつ、佐竹は伊豆署の刑事課に電話を掛けて 自転車とオートバイの手配を頼んだ。
　とにかく二輪車をフル活用しなければ、おそらくどうにもならない状況が発生する。
　スピードの点では無論、オートバイのほうが上だが、目立ちすぎる難点がある。
　変速ギア付きのサイクリング用自転車を移動手段の主軸に据えなければならないかも知れない。これは観光地なら目立たないだろう。
　そういった先行きの厄介事を考えただけで、まだ静岡にいて修善寺に唯の一歩も向かっていないのに思わず佐竹は溜息が漏れた。
　時々刻々、難事件になりそうな予感がびんびんと胸中で脈動し始める。

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