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　第一章　美人姉妹、乗り出す
１
　静岡県警通信指令室に泉野祐司から一一〇番通報が入り、捜査指揮官として捜査一課長から指名されたのが佐竹昭雄警部であった。
　早稲田大学出のノンキャリアだが、このところの犯罪検挙率の急落に頭を悩ませた警察庁の方針で、〝捜査畑のキャリア〟として採用された人材の一人である。
　全体的に見れば準キャリアで、警視庁捜査一課長あるいは刑事部長で定年を迎えるのが最出世コースということになる。
　さて、身代金が一億円の誘拐事件と知らされて、佐竹は直ちに部下に集合令を懸けた。
　まだ事件の概要が分からないが、身代金誘拐事件となると、いつもの部下だけではなく、どうしても大人数が必要となる。
　最低でも百人で、二百人でも三百人でも実働人員が多ければ多いほど良い。
　誘拐犯人は当然どこか、身代金の受け渡し場所を指定してくる。
　そこを犯人に気取られないように大掛かりに包囲し、もし許される状況であれば、逃走路を遮断して身柄を確保したい。
　私服刑事が迂闊にぞろぞろ動き回ったのでは犯人に勘づかれる。
　テレビの刑事ドラマのような間の抜けた捜査行動を採ったら、帰ってくる可能性のある人質も帰ってこない最悪の事態を迎えかねない。
　伊豆署の他に三島署、沼津署、熱海署、伊東署、下田署、松崎署などの周辺地域の各所轄署のほうには、捜査一課長が電話で順次、動員を懸けてくれている。
　誘拐事件の発生は即座に、県警本部詰めの新聞やテレビの記者クラブにも伝わる。
　誘拐事件の場合は直ちに報道協定が結ばれ、報道を手控えるのは無論のこと、取材方法にしても絶対に犯人に気取られて人質の身柄に危険が及ぶことのないように、慎重の上にも慎重な行動が要請、要求される。
　この辺りは、既に身代金目的の誘拐事件が幾例も過去に存在するので、各社とも対応は手慣れたものだった。

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