読書スピード計測


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　豪勢な書院数寄屋造りで離れ風に作られた吉野の棟に転がり込むように辿り着いて、一呼吸を置いて正座してから声を掛ける。
「女将でございます。何かこちらで変わったことはございませんでしょうか？　ちょっと当館のホームページのメール・ボックスに気になる文面のメールが送られてまいったものですから」
　桂子が皆まで言い終わらないうちに、凄い勢いでがらりと襖が開けられた。
　母親――泉野由美子が蒼白で引き攣る寸前の顔を覗かせた。
　その背後には父親の泉野祐司がおり、良く陽焼けしているので顔色こそ分からないが、やはり非常に険しい表情である。
（やっぱり、あのメールどおり、お嬢さんは行方が分からなくなっているんだわ……）
　不意に胃の辺りに緊張の疝痛を覚えつつ、桂子は努めて静かに問い掛けた。
「あの、お嬢様は……いらっしゃいますか？」
「それが、朝になってみたら姿が見えないんです。お宅のメール・ボックスに届いたメールというのは、ひょっとして何か舞に関わることでしょうか」
　由美子は興奮と不安を抑えきれない様子で、舌を縺れさせながら早口に訊き返した。
「はい。こういう文面でした。宿泊客の子供を誘拐した。身代金は一億円。警察には知らせるな。《伊豆の踊子》より――と」
　桂子の言葉の途中で、由美子は脳貧血を起こして卒倒しかけ、それを急いで背後から祐司が抱き止めた。
　畳の上にくずおれながら由美子が嘆きの声を発した。
「何だってこんなことに……いったい、どこの誰がどうやって……」
「そんなことより、警察だ。身代金の一億円も銀行に言って用意させなくちゃならん」
　祐司は噛み付きそうな表情で時計に目を遣った。

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