読書スピード計測


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そしてまたじいっとして待っている。
もう答えるはずだと思う時問がたつ。
山はひっそりしていて、ごうごうという谷川の音がするばかりである。
また前に待ったほどの時問がたつ。
聞こえるものは谷川の音ばかりである。
これまではフランツはただ不思議だ不思議だと思っていたばかりであったがこの時になって急になんとも言えないほど心細く寂 しくなった。例えばこれまで自由に動かすことのできた手足がふいと動かなくなったような感じである。麻痺の感じである。麻痺は一部分の死である。
死の息が初めてフランツのうなじに触 れたのである。フランツは麻のようなブロンドな髪が一本一本逆に立つような心持ちがして、何を見るともなしに、身の回りを見回した。目に触れるほどのものになんの変わったこともない。目の前には例の岩が屏風のように立っている。日の光がところどころ霧の幕をうがって、モミの木立を現している。風の少しもな い日の癖で霧がたちまち紹い雨になって、今まで見えていたモミの木立がまた隠れる。谷川の音の太い鈍い調子を破って、どこかで清い鈴の音がする。雌牛の首に懸けてある鈴であろう。
フランツは雨にぬれるのも知らずに、じいっと考えている。あまりに不思議なので、夢ではないかとも思ってみた。しかしどうも夢ではなさそうである。

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