読書スピード計測


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岩が屏風のように立っている。登山をする人が、初めてミヤマウスユキソウの白い花を見つけて喜ぶのは、ここの谷問である。フランツはいつもここへ来てハルローと呼ぶ。
麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたらローマ法皇の宮廷へでも生け捕られていきそうな高音でハルローと呼ぶのである。
呼んでしまってじいっとして待っている。
しばらくすると大きい鈍いコントルバスのような声でハルローと答える。
これが木精である。
フランツはなんにも知らない。ただ暖かい野の朝、ヒバリが飛び立って鳴くように、冷たい草むらのタべ、コオロギが忍びやかに鳴くように、ここへ来てハル口ーと呼うのである。しかし木精の答えてくれるのがうれしい。木精に答えてもらうために呼ぶのではない。呼べば答えるのが当たり前である。日の明るく照っているところに立っていれば、影が地に落ちる。地に影を落とすために立っているのではない。立ってい れば影が差すのが当たり前である。そしてその当たり前のことがうれしいのである。
フランツは父が麓の町から初めて小さい鵬を買ってきて履かせてくれた時から、こ こへ来てハルローと呼ぶ。呼べばいつでも木精の答えないことはない。

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