読書スピード計測


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　二人は橋を渡って、すぐ左へ切れた。渦は青い田の中をうねうねと延びて行く。どこまで押して行くか分らない流れの跡をつけて一町ほど来た。そうして広い田の中にたった二人寂しく立った。雨ばかり見える。叔父さんは笠の中から空を仰いだ。空は茶壺の葢のように暗く封じられている。そのどこからか、すきまなく雨が落ちる。立っていると、ざあっという音がする。これは身に着けた笠と蓑にあたる音である。それから四方の田にあたる音である。向こうに見える貴王の森にあたる音も遠くから交って来るらしい。
　森の上には、黒い雲が杉のこずえに呼び寄せられて奥深く重なり合っている。それが自然の重みでだらりと上の方から下がって来る。雲の足は今杉の頭にからみついた。もう少しすると、森の中へ落ちそうだ。
　気がついて足元を見ると、渦は限りなく水上から流れて来る。貴王様の裏の池の水が、あの雲に襲われたものだろう。渦の形が急に勢いづいたように見える。叔父さんはまた巻く渦を見守って、
「獲れる」
とさも何物をか取ったように言った。やがて蓑を着たまま水の中に下りた。勢いのすさまじいわりには、さほど深くもない。立って腰までつかるくらいである。叔父さんは川のまん中に腰を据えて、貴王の森を正面に、川上に向って、肩に担いだ網を下ろした。

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