速読書評『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』
吉田インストラクター書評『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』
僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか(幻冬舎)
萩上チキ (著)
217ページ
「叩いて終わり」はもう終わり。
政治・経済、社会状況のバグ(問題)を総チェックし、解決のためのフレームを提示。誰かを採点し続けるのではなく、自ら当事者として社会を変えていくための実効性ある方法を提言する。
【読書の所要時間】 1回目全体理解、2~3回目精読 合計:1時間
先日行われた衆議院総選挙。度重なる新内閣発足と解散のニュースに日本国民の誰もが「ああ、またか」とため息をつく、「知らないよ、そんなこと」と投げやりになる声も聞く。このように不景気で閉塞感に覆われた昨今、世を憂うダメ出しばかりが多くなり、ますますマイナスイメージを持つ悪循環。そんな状況の中この本のタイトルは目を引きました。
本書は著者が目的とする社会の姿を知るための教養書、未来を語り合うための思想書、という以外に、初心者向けの効果的なインプットアウトプットのための様々な考え方の案内書とも言えると思います。私たちが当たり前と思っていた白や黒、踏み込んだように見えて曖昧なグレーゾーン以外にもこんな新しいやり方があるよ、とこれまでの見方や発想をガラッと変えるきっかけをくれる一冊です。
著者は比較的若い評論家ですが、若者はもちろん多くの世代が持っているであろう、政治や社会への言葉にできない疑問やシニカルな気持ちが代弁されています。また普段から社会問題に幅広く言及する著者だからこそ、タテ割りに見がちな現代の諸問題(税金、生活保護やひきこもり、メディア、災害対策など)がヨコのつながりから包括的に解説されるので、読後はもやもやしたものが整理されたすっきり感があります。
本書で意図されることは、問題への正しい理解・バランスの良い見方・当事者意識・情報収集の重要性… 簡単に言ってしまえばこれらの一見ありふれた言葉に収まるかもしれません。しかしこれらが実際にどんな可能性をもって作用するのか、具体的に分かりやすく取り上げられます。動き出すためのヒントがちりばめられているのです。
ここで根幹となるポジティブシンキングとは、単なる精神論でものんきな考え方でもありません。厳しい状況を前にしたとき、モチベーションを上げ見方を変えることで拾う材料も異なり、打開する力に大きく差がつくということは、アスリートでも政治家でも一般市民一人一人でも同じだと実感される方もきっと多いでしょう。
著者がここでポジ出しと提案する意見はあくまで一例であり、これにまたダメ出しするのも賛同するのも読者個人の自由。しかしそのダメ出しは、無意識でももっといい方法があるということの表れなのだから、そのヒントを糧に私たち自身のポジティブな提案を作ってみるのです。小さな一つのジャンルだけでも、未熟な意見でもいい。それがより成熟したものとなるよう自分が問題に関わっていこうという深掘りの姿勢さえあれば良いのだと思います。
政治家や政治家を評論する評論家へのダメ出し、世の中全体の仕組みへのダメ出し。知ろうとすると嫌なものばかり目につくから、自分一人の影響力なんてたかが知れているから。知ることから逃げる言い訳に、私たちは使っていないでしょうか?
思い当たる節がある方に、おススメです。
(吉田インストラクター 2012年12月)