速読ブックレビュー・書評
佐野インストラクター書評『採用基準』
伊賀 泰代 (著)
248ページ
マッキンゼーの採用マネジャーを12年務めた著者が初めて語る。
延べ数千人の学生と面接してきた著者が、本当に優秀な人材の条件を説くとともに、日本社会にいまこそ必要な人材像を明らかにする。
【読書の所要時間】 1回目 30分(精読)、2回目 15分(全体理解)
マッキンゼーの採用基準は、端的に言えば「将来リーダーとなるポテンシャルを持った人」である。しかし本著の意図はそのようなものではない。日本にこれから必要な人材やキャリア形成とは何であるかということこそが著者の意図するところだろう。
本著は外資系コンサルティングファーム、マッキンゼーアンドカンパニーで採用担当をしていた著者によって書かれたものである。序章では彼女が人材育成やキャリア形成に興味を持つに至った経緯や彼女自身の具体的な経歴が書かれている。大学卒業後に日系証券会社へ勤め、私費でMBA留学を果たし、UCバークレーで学ぶうちに日本の人材育成へ疑問を抱き始める。帰国後にマッキンゼーでコンサルタントとして働き、数年後に転機が訪れる。コンサルタントとして働くことに疑問を感じてはいたが、コンサルティング業界では“Up or Out”(昇格か組織を出るか)と言われる原則があり、人事として働くことは世間一般で言われるキャリアアップにはあたらなかった。それでも人事マネージャーになることを決意し、その道を進んでいく。評価基準は世間ではない、自分自身の関心に自然に傾いていくし、決断するのは自分自身である。マッキンゼーの人材育成は意識変換装置となったのだ。それを彼女自身の経験が証明していて、主張にリアリティを持たせる。
さて、マッキンゼーが採用したいのは将来のリーダーであると彼女は言う。リーダーとは役職ではない。本著では漂流した船の例が出てくる。リーダーとは命を託せる人であり、自説を採用することよりも一人でも多く救うという目標を優先して、ときにはリスクをとることができる人である。楽しく漂流することは求められていないため、それは性格にもよらない。近年日本で総理大臣が何度も入れ替わったという例をとり、日本におけるカリスマリーダー待望論と総量としてのリーダーシップ・キャパシティの不足の峻別をしている。
本著は良質なビジネス書であり、日本の人材育成やキャリア形成の問題点を示し、警笛を鳴らしている。そして具体的に4つのタスク(目標を掲げる、先頭を走る、決める、伝える)を示し、リーダーシップを身に付けるための4つの基本動作(バリューを出す、ポジションをとる、自分の仕事のリーダーは自分、ホワイトボードの前に立つ)も示したうえで、日常的に使えるスキルであり、かつ訓練をつめば誰でも学べるスキルであると述べている。課題の大小問わず、現実の課題を解決まで導くことができる人こそがリーダーなのだ。就職活動、転職活動に直面している人にはもちろん、自分のキャリア形成を再考するきっかけとしてすべての人に本著をおすすめしたい。
(佐野インストラクター 2012年5月)