速読ブックレビュー・書評
大林インストラクター書評『星を継ぐもの』
ジェイムズ・P・ホーガン(著) 池 央耿(訳)
309ページ
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。
【読書の所要時間】 1時間30分(精読で1回)
SFの映画やドラマはよく見るのですが、これまで本格的なSF小説はディック程度しか読んだことがありませんでした。ん? プロレスラー? Zガンダム? と、よく分からないまま「読者投票第1位」と帯が強烈に誘惑してくるので本屋さんで購入して読み始めました。案の定10ページ程度読んだところで置いていかれ、注釈を探してみますがありません。士郎正宗様の優しさを痛感しながらも、読み進めるにつれホーガンの描いた近未来に引きずり込まれていきました。
国という枠組みはありながらも全世界的に平和な時代に突入し、軍備が放棄され、余った資金を利用し国連が宇宙開発を主導している時代。月面にはたくさんの基地が作られ、開削作業や現地調査などが盛んに行われていた。その一環として現地の調査隊が測量作業を行った際に偶然見つけた洞窟の中から身元不明の死体が発見されるところから物語は始まります。チャーリーと名付けられたこの死体、詳しく調べたところ身元が判明するどころか死亡時期が5万年以上前だということがわかります。しかしチャーリーはどこからどう見ても人間の姿をしているのです。チャーリーは何故月で、しかも5万年前に死んだのか。一つの謎を解明するために学者が様々な説を対立させながら答えに近づき、その過程でまた新たな謎が生まれていく。そして舞台は地球と月だけではなく火星にまで広がります。
この作品は今から10年程度後の世界を舞台にしています。あまりにも近すぎるので色々な点が気になるでしょう。あと10年で月面基地とか無理でしょうし。コンセントがついた通信可能なブリーフケースは、スタイリッシュなラップトップが市販されている現在において既にただの箱です。まぁテラフギアみたいな形でいいのなら空飛ぶ自動車はかなり的確ですが。それでも面白いのは、登場する小道具や設定ではなく、ミステリー小説を読んでいるような謎解きの快感と展開の疾走感があるからだと思います。
謎解き終了後には星を継ぐものとしての方向性だけでなく、地球の誕生から消失までの一過程を担う存在として今現在を生きる責務を考えさせられ、やはりSF要素以外の部分もいいんだなぁと感じました。
なんだかんだで最後まで読めた上に面白かったので、先ずは家にあるスタニスワフ・レムの本から手をつけてこの本の続編にあたる「ガニメデの優しい巨人」も読んでみたいと思います。
(大林インストラクター 2012年12月)