速読ブックレビュー・書評
夏目インストラクター書評『悲しみよ こんにちは』
フランソワーズ サガン (著), 河野 万里子 (翻訳)
197ページ
セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との再婚に走りはじめたことを察知したセシルは、葛藤の末にある計画を思い立つ……。20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典、半世紀を経て新訳成る。
【読書の所要時間】 1回目 40分(熟読)、2回目 30分(熟読)、3回目 20分(精読)
“観念の世界で、わたしは、恥知らずの低劣な人生を考えていた。”
作中でいちばん印象的なことばです。
著者サガンが18歳のころに執筆された彼女の処女作。感受性の強い少女の憂いや自尊心、残酷さなどといった心理表現が豊かで巧み。さまざまな感情に溢れた作品です。刹那的なひと夏の経験が主人公セシルの一人称の視点によって描かれます。人間として未熟な面を残してはいるものの、心理的には充分に成熟しているようにも感じられる。登場人物の中でもっとも洞察力に富んでいて、要領が良く機転がきくのは間違いなくセシルである。ただ、そのような自身の特質を人を操ることに用いてしまうのはセシルが未熟であるという事実を物語っている。“少女”から“女性”へという心理的、肉体的な境界線上に属しているからであろうか。セシルのなかには“少女”と“女性”が同居している。セシルは自身のアイデンティティを脅かす存在であるアンヌをいかにして排除するのかという計画を立てて、周囲の人物を巻き込んで自身の計画を実行に移していきます。この小説を魅力的だと感じられるかは、セシルに共感できるかできないかだと思います。特に女性にオススメしたい一冊です。
(夏目インストラクター 2012年11月)