速読ブックレビュー・書評
おおがみインストラクター書評『統計学が最強の学問である』
西内 啓 (著)
320ページ
あえて断言しよう。あらゆる学問のなかで統計学が最強の学問であると。
本書では、最新の事例と研究結果をもとに、今までにない切り口から統計学の世界を案内する。
【読書の所要時間】 合計:55分(2回)
「統計学」と聞いただけで、苦手意識を持つ人がいる。私は大学の講義で軽く学んだことがある。面白かった記憶はない。だが、安心してほしい。これは教科書ではない。難しい数式はほとんどない。「統計学」が医療、教育、ビジネスなどの広い分野で威力を発揮していることを教えてくれる。また、「統計学」で登場するいろいろな考え方をわかりやすく説明している。
様々な具体的な事例が語られるが、読みやすい。コレラの大流行を抑えた話、DMの送り方を変えて売り上げが飛躍的に伸びた話、など興味深い。ロナルド・フィッシャーの有名な、ミルクティにうるさい婦人、の話はやはり印象的だ。「紅茶を先に入れたミルクティ」と「ミルクを先に入れたミルクティ」では味が違う。一笑されて終わりそうな婦人の主張を受けて実際にテストするのだ。ランダムな順番で飲ませ、確率計算をする。この実験が元となった「ランダム化比較実験」は、実験や調査観察データの分析方針に大きな影響を与えることになる。
今流行の「ビッグデータ」。IT化が進み、蓄積されるデータは膨大なものとなったが、すべて解析することもできるようになった。それには莫大なコストがかかる。サンプルサイズは一定以上を超えると誤差はわずかとなるため、わずかな誤差の縮小を求めて資金を費やすのは非合理的ではないかと意見している。また、ビジネスに使いたいならば、データ解析それ自体に価値があるのではない、と強調している。どのようなデータを収集し解析するのか、そしてそれを活かして何を行い、どれだけの利益につなげられるのか、という視点を持つことが必要だという。「統計学」は有益な道具となるのだ。
特に取り上げるべき部分ではないが、「あるある」は当てにならない、は常々反省するところだ。確かに「経験と勘」で話しているのをよく耳にする。人間は「記憶の偏り」があり、ある体験を過剰に思い出し一般化するような欠陥がある。テレビの論説者の話や一般のビジネス書の内容が、必ずしも一般的に当てはまるかというと、そうとは限らない。自身も気をつけたいと思う。
この本を読んで、実際の統計計算を出来るようにはならない。統計解析を使うと、どんなことが出来るのか、どのように役立てることが出来るのか、概要をつかむには良書である。
(おおがみインストラクター 2013年5月)