矢成インストラクター書評『コミュニティデザインの時代』
山崎 亮 (著)
255ページ
孤立死や無縁社会という言葉が毎日口にされる現在の日本。今こそ人とのつながりを自らの手で築く必要が痛感されている。この時代の声に応え、全国で常時50以上のコミュニティづくりに携わる著者が初めて明かす、住民参加・思考型の手法と実際。ビジネスの場でも役立つ、真に実践的な書。
【読書の所要時間】 1回目20分(全体理解)/ 2回目30分(精読)
本書はコミュニティデザインというあまり聞き慣れない言葉について5W1H形式で著者の体験をもとに書かれたものである。そもそもコミュニティデザインって何だろうか。本書の副題に『自分たちで「まち」をつくる』とあるように、まちづくりについて書かれたものなのだろうと察しはつくが、なぜ様々なコミュニティツールが普及した今頃になって土地に根ざしたコミュニティが注目されはじめたのか。そんなことに興味をもち本書を手にした。
本書は大きく4つの章で構成されており、「なぜいまコミュニティなのか」「つながりのデザイン」「人が変わる、地域が変わる」「コミュニティデザインの方法」とまとめられている。
第1章はなぜいまコミュニティが注目されるのかという視点から書かれており、「つながり」と「しがらみ」というコミュニティのもつ2つの性格を用いて、そもそもコミュニティとは人々の生活の中でどんな役割を果たしてきたのか、なぜそのコミュニティが衰退してしまったのか、そして今コミュニティはどのように認識されているのかということについて触れている。第2章は具体例を用いてコミュニティデザインとは何なのか、氏が実践するまちづくりが今までのハード整備を前提としたそれと違い、つくらないということを前提にしたデザインだということが書かれている。第3章ではまちづくりを行っていくなかで地域の人々とどのように関わってきたのか、様々な事例をもとに人々の気持ちの変わりようや、地域の変化について書かれている。最後に第4章では以上の活動をどのような方法で行っているのかということに触れられている。
これからの人口減少社会という課題を前につながりの希薄化という問題とどのように関わってきたのか、そしてこれからどのようにしていきたいのか。「つながり」という形のないものをデザインすることで地域を活性化させてきた著者の仕事術が書き記されている。
全体的に著者の人柄の良さが滲み出た好感の持てる内容であった。デザインというと少し敬遠されがちなイメージがあるが、今ではデジタルツールだけでなく、現実の立体物でさえプリントできてしまう3Dプリンターまでも個人で所有できるくらいの価格になってきた時代。身の回りのモノを「自分たちで」という主体的な態度でデザインしていく時代は様々なところから押し寄せてきている。自分の身の回りのモノは自分でデザインする時代を前に、本書を手にして家の中だけではなく、自分たちの住む町をデザインしていくことの楽しさを覚えてみてはいかがだろうか。読破後、自分の住む町が少し変わって見える。そんな一冊です。
(矢成インストラクター 2012年11月)